手術
時間になりベッドのある部屋に呼ばれる。
精神安定剤を飲まされる。
肌着の上に指定の服を着、横になる。
麻酔、吐き気止めの入った点滴を打たれる。
点滴は人生で初めてだったので、かなり恐怖であった。
眠くなったら寝ていいですよ、と言われたが地味な痛みが気になって眠れなかった。半分妄想の世界にはいた。
点滴を少ししたところで看護師と手術室へ。
テレビでよく見る電球のたくさんある丸いライト、アルコールのにおい、身体につけられる装置など、非現実にただ緊張していた。
しかしこの時意識はあるままだし、膣に入れたスポンジを抜かれるのは痛いし、大丈夫なのかと思った。
そして酸素マスクに気体の麻酔が混ぜられた。
大きく息を吸って、吐いて、無我夢中で吸って、吐いて、吸えなくなる頃には別の世界にいた。
ふわーっと身体から遠ざかる意識、緑の幾何学模様の部屋を回転する感覚、小学生の頃図工が得意で、『図工のマドンナ』と呼ばれていたことを十何年ぶりに思い出したこと、現実とは別のパラレルワールドにいること、でも恋人のことは思い出せること。
幾何学模様の部屋を回転し終わりそうになった頃、意識が戻ってきた。多分まだ早かった。
子宮に圧を感じたり、吸い取る音だったり、吐いてしまったり。
終わるまでが長かった。
「終わりました」
この時痛みは無く、ただ気持ち悪いだけだった。
無意識に泣いてたようで看護師が涙を拭いてくれていた。
このあと着替え、再度診察をし、空になったエコーを見た。さっきまでいたのに。
お会計をした。
明日の予約をした。
薬を貰って帰った。
つわりもなくなって、大きくなることも無くなって、普通の生活に戻れるのに嬉しくなくて、今更だけど、産むことが出来なかったことに対して後悔をした。